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仙台高等裁判所 昭和30年(ラ)13号 決定

抗告人 大平与助

相手方 平賀町長

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由は別紙記載のとおりである。

案ずるに、本件免職処分が抗告人の主張するように違法である場合にその蒙るべき損害は主として俸給を得ることによる利益を失うことにあることは抗告人の主張自体により明かである。而して行政事件訴訟特例法第十条第二項にいわゆる処分の執行により生ずべき、償うことのできない損害とは、原状回復ないし金銭賠償不能の損害をさすものと解すべきであるから、本件抗告人の場合のように免職処分によつて俸給を失うことによる損害は、他に衣食の道が全くないとせば格別、結局金銭によつてその損害を賠償し得る場合に該当し処分の執行を停止し得ないものといわなければならない。抗告人は俸給の支払を受けることができないため抗告人及びその家族が日々の生活に困窮しているのであるから、将来支払わるべき金銭を以ては償い得ない損害を被る場合に該り執行停止の条件を充足するものであると主張するので案ずるに、記録によれば抗告人方家族は妻と十八歳を頭に六歳の末子ほか四人の計八人で抗告人は昭和二十五年九月柏木町小使となるまでは水田約二反四畝歩を耕作する傍ら日雇として生計をたてゝいたもので、本件免職処分後は右水田の耕作を継続する一方長女と妻を夫々居町で女中奉公をさせどうやら暮しているものの小使在職中に比し現金収入が減少した為生活は相当窮迫していることを看取するに難くない。しかし右認定の事実に徴すれば免職処分の執行を停止して俸給を給与しなければ生活ができない程の差迫つた状態にあるものとは未だいうことが出来ない。

従つて抗告人の場合も前示原則の例外には当らず、金銭を以てその損害も賠償しうべき場合にほかならないものとみるべきであるからこれと同趣旨の原決定は相当であり、本件抗告は理由がない。

よつて民事訴訟法第四百十四条第三百八十四条に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 板垣市太郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)

抗告理由書

一、抗告人の主張事実は原審に提出せる免職処分執行停止命令申請書記載の通りである。

二、疏明方法は原審に提出せる疏甲第一号証乃至第十六号証を援用する。

三、申請人が本件免職処分により蒙る損害は主として俸給を得ることによる利益を喪失せることに存することは原決定、認定の通りであるが、右経済的利益の喪失が常に「緊急ならざる損害」にして「償い得る」ものなりとの原決定の認定に対しては首服するを得ないのである。

申請人の如く他に見るべき資産もなく又収入の道なきものにとつては俸給の喪失は直ちに生活に対する重大なる脅威であり、且つ家庭生活に対し破壊的影響を来す処であります。現に申請人方は本件解職のため一家糊口に窮し、妻は他家に女中奉公に出で居る始末でありかかる家庭の破壊は到底長く忍ぶを得ない処である。

申請人が本案事件に於て長年月の後に救済を得るも時既に遅く何等の慰藉にも救済にもならざる事態は明々白々であり、かゝることは法の本とする処に非ざるものと信ぜられるのである。

四、尚昭和三十年三月一日町村合併により柏木町は近隣町村と合併し平賀町を形成し、その町長職務代行者に於て旧柏木町長の職務一切を承継せるを以て、被申請人の表示を変更せる次第である。

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